<第二回> 「キャリタス就活」の成功に学ぶ、一貫性のある戦略と実行の秘訣
2023年4月、自社の主力サービスである「キャリタス就活」のリブランディングを実施した株式会社キャリタス(旧:株式会社ディスコ)。その戦略策定から実行に至るまで伴走支援を行ったのが、Bloom&Co.でした。
前回に続き、株式会社キャリタス執行役員CMOの毛塚友也氏と、支援にあたったBloom&Co.の豊浦仁子氏、永延葉月氏が、顧客戦略をどのように実行に移し一貫性のあるブランドを築いたのかを語り合いました。
*<第一回> 「キャリタス就活」のリブランディング、成功の裏側にあった顧客戦略とは?
*<第二回> 「キャリタス就活」の成功に学ぶ、一貫性のある戦略と実行の秘訣
豊浦: UAVの開発や戦略策定ができたら、それを具体的に実行する難しさもまたあります。改めて自社のプロダクトやランディングページ、広告などを戦略に合わせて変更していかねばなりません。今までPDCAを回して改善を続けていればいるほど、最適化されたクリエイティブから変更することにリスクを感じる会社様も多く、実行に移せないというケースも少なからずあります。毛塚さんは、今回のリブランディングにおいて、そのようなリスクをどのように評価し、対応されましたか?
「キャリタス就活」の成長に向け、意思決定の支えになった成功体験
毛塚:担当する事業フェーズやメディアポリシー、企業文化など様々な観点で評価する必要がありますが、今回のリブランディングに関して言えば、「キャリタス就活」をさらに成長させていくには、統一感を持って、ブランドの一貫性を伝えることが重要であり、そのための変更はリスクではないと考えました。キービジュアルやタグラインの設定は、ブランドの成長に必要なステップだと確信していたので迷いはなかったです。
事業への投資という観点で言えば、コストを捻出して実行する事に対しては、一定のリスクが発生するだろうとは考えていました。しかし、インサイト調査を通じて学生のニーズを深く理解できていましたし、過去の経験からも、顧客インサイトの理解に基づいた施策を進めることの重要度と優先度が認識できていたので、実行に疑いの余地はありませんでした。
私はこれまでのキャリアを通じ、メディア戦略の構築やプロモーションにおける効果的な媒体選定、そのポートフォリオ構築のコツなど、ブランディングの要諦を実践のなかで学んできました。そこで積み重ねてきた成功体験があったからこそ、意思決定に迷うことなく、リブランディングに邁進出来たと思います。
豊浦:見い出したインサイトを深く理解し、それをUAVとともに施策に丁寧に落とし込んでいらっしゃいます。私たちBloom&Co.とのセッションに多岐にわたる部門の方が参加されたことで戦略レイヤーで意思決定がスムーズに進んだのとは違い、実行レイヤーではより多くの自社メンバーや他社の方が関わります。
私たちとのセッションに参加されていない多様な方々を、どのようにして同じ深い顧客インサイト理解まで導き、戦略で描いたことを忠実にスピード感をもって実現できたのか、そこにも毛塚さんのご経験が生きているように思います。
徹底したインターナルマーケティングと共通理解の浸透
毛塚:今回の戦略を実行に移していく際、特に意識していたのはインターナルマーケティングです。特に、リブランディングの目的やターゲット、提供したい価値やメッセージを徹底して社内へ説明することでした。
ユーザーに向けてサービスの価値やメッセージを伝え続けるにはとても沢山のパワーが必要で、皆が一丸と取り組まなければなりません。ですから、社内にその意図や目的を共有する優先度は非常に高く、そういった観点でも、社内の理解を得られないような取り組みはユーザーに届くはずがないと考えています。
今回の取り組みでは、自ら率先して「キャリタス就活」のUAVやその背景にある考え方を伝え、企画部門や営業部門、イベント運営チームなど関連部門と認識のすり合わせを行い、関係構築を行っていきました。そのプロセスをおろそかにせず、地道に取り組んだことが、ユーザーに価値を届ける基盤となり、効果的なブランディングにつながったのではないでしょうか。
豊浦:さらにUAVを見い出していくなかで、ターゲットの理解が深まっていたので、より適切なクリエイターの選定が出来ましたし、実際、ユーザーの心に響く表現をしていただけました。外部のパートナーの方にも、UAVを設計図として、ユーザーのインサイトやサービス価値をしっかり伝えられたことが、一貫性のある効果的なクリエイティブに結びついたと思います。
毛塚:ご一緒したクリエイターの方とは、私も直接やりとりをして、共通認識を持ってもらえるよう努力しました。就活領域はターゲットである就活生の動きや状況をイメージしてもらうのが難しい部分があります。そのため今回、担当してくださったクリエイターの方には、ユーザーのインサイトや、今回の取り組みの背景、マーケットのマクロ、ミクロ環境などを丁寧に説明するよう心掛けました。最初は、すれ違いもありましたが、その内容を理解してもらえた後には、「このクリエイティブならいける」と思える作品を提案してもらえるようになりました。
豊浦:Bloom&Co.も広告代理店に対してオリエンテーションを行う際は、営業担当者を介してではなく、クリエイターの方に直接説明するよう心掛けています。ただ、どうしても時間の制約から限られた説明にとどまってしまうこともあり、今回はキャリタスの皆さんが、さらに深くクリエイターさんのフォローに回ってくださったことで、より効果的なクリエイティブを実現できました。
永延:UAVやインサイトに基づく設計図を共有していても解釈や解像度に違いが生じることはよく起きます。その都度方向性の修正や解釈の調整を行い、ブラッシュアップを重ねることで、同じ解像度で、同じ方向を向いてクリエイティブを作り上げていくプロセスというのが、戦略を実行に反映する上でとても重要なポイントになると思います。
一貫したブランドコミュニケーションを実現した秘密とは?
毛塚:今の話はブランドの運用にも通じますよね。今回私達は、新たなキービジュアルやタグラインの作成に取り組んだわけですが、それで終わりではなく、作った後は社内で運用していかねばなりません。
当社では年間多くの合同企業説明会を開催しており、積極的に紙のDM等を活用したダイレクトマーケティングを行っています。社内外にその制作に携わる関係者が多数存在し、ひと月で100程度の制作物が作り出されることもあります。
もちろん社内にはキービジュアルを使用する際のブランドガイドラインなどを配布していますが、街頭広告や、デジタル広告、SNS、学校に配布するチラシ、学生に送るDM等でのイベント案内など、ブランドのタッチポイントが多岐にわたるなか、一貫したコミュニケーションを展開していくのは容易ではありません。
当社の場合は、プロモーション担当者が、クリエイティブをチェックするフローを構築し、制作物ひとつひとつを確認するその仕組みを通じて、ブランドの一貫性を保っています。手前みそになってしまいますが、その徹底ぶりには、本当に感心させられます。
豊浦:クリエイティブが効果的にUAVを訴求しているか、チェックする体制を設けることは、とても効果的なアプローチだと思います。初期の段階からかなり幅広い部門の方々と取り組みを進めていきましたが、実行のフェーズではさらに多くの関係者が関わることになります。その社内外の関係者にUAVをしっかりと伝え浸透させる仕組みを作ることが、一貫性を持った実行の鍵になると実感しました。
永延:キャリタスの皆さんは、学生のインサイトをしっかり捉え、それを基に施策に落とし込むことに当初から真摯に向き合っておられました。UAVという共通認識をもちながら取り組みを進めていたことが、今回のリブランディングの成果につながっており、その一貫性あるブランド展開のための徹底した取り組みや細部に至るこだわりは、他のブランド担当者にとっても参考に出来る部分が多いと思います。
「キャリタス就活」のブランド資産を拡張し、次なる成長へ
豊浦:最後に今後の展望についてお聞かせください。
毛塚:我々のサービスが学生の皆様に向き合いつづける事に変わりはありませんが、変化も多く、より予測しづらい世の中になっているとも感じます。
今回、導き出したブランディングの本質はすぐに変わるものではありませんが、その見せ方やコミュニケーションの在り方は、学生のニーズ、我々を取り巻く環境や時代の変化に応じて微調整する必要があると考えています。持続的にUAVのブラッシュアップに取り組み、就職情報サービスとして独自のポジションを築きながら学生のニーズをより捉えたサービスを提供し続け、利用満足度を高めることをめざしていきます。
また、当社はグローバルに強みを持つキャリアフォーラムのサービスなど「キャリタス就活」以外にも様々な事業を展開しています。今回のリブランディングの取り組みを通じて得たサービス価値の認知やユーザーとのエンゲージメントを「キャリタス就活」以外のサービスにもシェアしながら、事業単体ではなく会社全体で連動し成長できるような切り口を模索したいと考えています。引き続きBloom&Co.の力も借りながら、よりスピード感を持って新たな挑戦に取り組みたいです。
豊浦&永延:それは楽しみです。本日は、貴重なお話をありがとうございました。